前回までのあらすじ
お母さんを亡くした子供のトゲピー『麦』は、
ある日流れ星にお願い事をする。
その流れ星に乗っていたジラーチ『キル』が現れて
麦の願い事を叶えようとするが
麦の願い事とはいったい・・・?
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      〜夢の中で〜(第3話)

「それじゃあ・・・それじゃあ、いなくなってしまったお母さんと
もう一度一緒に暮らしたい!」
麦は叫びました。
「今まで一緒に暮らしていたのに急にいなくなっちゃって・・・
だからまたお母さんと一緒に暮らしたいの! いいでしょう?」
麦は訴えるような目をしてキルを見つめます。
しかし、キルは暗い顔をしていました。
そして少しの沈黙の後、キルは重々しく口を開きました。

「ごめん・・・そのお願いは叶えられないんだ・・・」
暗い顔で話すキルに麦は思わず叫んでいました。
「どうして!?どうしてだめなの!?」
叫ぶ麦をつらそうに見ながらキルはいいました。
「ごめん・・・でも、どうしてもそのお願いは叶えられないんだよ・・・
いくら僕でも亡くなってしまった命をよみがえらすことはできないんだ・・・」
キルの言葉を聞いて麦は泣き崩れました。
「お母さん・・・」
泣きながらつぶやく麦を見て、キルは言いました。
「お母さんと一緒に暮らすことはできないけど会うことならできるかもしれないよ。」
麦は驚いて顔を上げました。

「どういうこと・・・?」
麦は涙声で聞きました。
「・・・・・・」
キルはしばらく何か考えていましたが、ついに答えがでたようでした。
「よし!これならきっと・・・
麦、きみはこれから早く家に帰って寝て。
きっとお母さんと会わせてあげるから。」
「え・・・?」
「それじゃあ、すぐ家に帰って寝てね!」
そういうとキルはまだよくわかっていない麦を残してどこかに行ってしまいました。
「・・・・・?」
いまだによくわからない麦でしたが、お母さんに会えるのなら・・・と思い、
急いで家に向かいました。

家に着いた麦はすぐにベットに入りました。
そして
「なんだろう・・・?」
と考えているうちに眠ってしまいました。

「あれ・・・?ここは・・・どこ・・・?」
周りはお花、お花、お花。
麦は見渡すかぎりのお花畑にたっていました。
向こうから誰かやってきます。
「だれだろう・・・?」
麦はその陰をじっと見つめました。

 

〜夢の中で〜(第4話)

陰はだんだん大きくなっていきます。
そしてその陰は麦のよく知っている姿となって現れました。
「・・・お母さん・・・!」
麦はつぶやきました。
「麦・・・」
「・・・お母さん!!」
麦はお母さんに駆け寄り、抱きつきました。
お母さんは優しく受け止めてくれます。
「麦・・・会いたかったわ・・・」
「お母さん・・・本当にお母さんなの?」
麦は聞きました。
麦にとってお母さんが目の前に現れたことはそれくらい信じられないことでした。
お母さんはにっこり笑いました。
麦にとって、それは充分すぎるほどの答えでした。
麦とお母さんはしばらくずっと抱き合っていました。
お互いの存在を確認するように・・・
そして、しばらくしてからお母さんは麦をそっと地面におろしました。
そして、言いました。

「麦・・・今日はあなたにお願いを言いにきたの。」
「おねがい・・・?」
麦は驚いた顔でお母さんを見上げます。
「そう。あなたにはもう私のために泣いてほしくないの。
あなたに強くなってほしいのよ。」
「・・・?」
麦には何のことかさっぱりわかりませんでした。
「あなたの『麦』という名前にはちゃんと意味があるのよ。」
「意味・・・?」
麦にはやっぱりわかりません。
「『麦』はね、何回人に踏まれても起きあがって育つ強い植物なの。
あなたにもそうなってほしくてこの名前を付けたのよ。」
「踏まれても起きあがって育つ強い植物・・・」
麦は自分の名前の意味を知ってびっくりしました。
「お母さん・・・
・・・わかった。 僕もう泣かないことにする。
お母さんの言うとおり、強い子になるよ!」
麦は決心してお母さんに言いました。
それを見たお母さんは安心した様子で何かをさしだしました。

 


 〜夢の中で〜(第5話)

「麦、わかってくれてありがとう。
これを受け取って。」
みると、それはネックレスでした。
真ん中にはめてある青い宝石が綺麗に光っています。
「これは・・・?」
麦は聞きました。
「それはお母さんが大切にしていたものなの。
麦にちゃんと渡せて良かった。」
そこまで言うと、お母さんはだんだん透けてきました。
「・・・お母さん・・・?」
麦は驚きました。
「ごめん、麦・・・もう行かなきゃ。」
「まって!お母さん! 行かないで!!」
麦は走り出します。
「大・・・事にして・・・ね・・・」
「お母さん!!」
麦が飛びついたときにはもう、お母さんの姿は完全になくなっていました。
「お母さん・・・」
麦は目を覚ましました。
「ゆ、夢・・・?」
夢だとわかった麦はまた泣きそうになりました。
そのとき、自分が何か堅いものを握っているのに気がつきました。
「あ・・・」
青い宝石がはまったネックレス・・・
まぎれもなく、麦がお母さんからもらったネックレスでした。
それを見た麦は思い出しました。
(もう泣かないって決めたんだった。)
そう思いながら麦は外に出ました。
遠くの方で仲良しの友達が遊んでいるのが見えます。
麦は友達に向かって走り出しました。
お母さんのネックレスを首にかけて・・・
青い宝石にお母さんの笑った顔が写ったような気がしました。

          〜END〜